数との戦い Fight With Number.

内田 敬一 2009/06/20

 株価といい為替相場といい、はたまた政党支持率といい数の増減で一喜一憂することの多い昨今。 アフリカの奥地のとある部族には数を表す言葉が、一と二と三までしかなくて、それ以上はすべて「たくさん」という言葉で表すところがあるそうな。なんと長閑な暮らしでありましょうや。


 一方フランス語では、英語同様1から20までを表す単語があるそうで、21から69までの数を表すときは英語と同じらしいのだが、70以上の数を表すときに、とんでもなく面倒なことになるらしく、たとえば70は60+10と表して、80なら4×20という言葉で表現するそうな。

 

 ちなみに99は4×20+19(quatre-vingt-dix-neuf)(発音不祥)となるらしい。 英語読上算はまだしも、フランス語読上算はまず誰も読み上げることは出来ないだろうし、誰もちゃんと弾けないでしょうね、きっと。

 

 お国によってこれほど数の概念というか数の表現の文化的背景は異なっているにもかかわらず、クォークの質量から銀河系の直径まで、数を使って表現できる万物の理は、まさしく数知れず、ついついそれらの数に振り回されてしまいがちになる無味な日常生活では、なかなか数だけでは理解できない自然の営みや生命の神秘=風の香りや小鳥の囀り、目映い朝日や柔らかい陽だまり=を美しいと感じる心を大切にして、一生命体として感性バランスを保ちたい、と本能的に思ってしまうのだ。

◇ ◇
 拙宅の周りには、まだ田んぼや畑が残っているせいか、数年前から春になると玄関の軒下にある古い巣にツバメがやってくる。糞の始末はそれなりに面倒なのだが、ツバメの巣は縁起が良い、という風習を信じて・・・はてさて去年やってきた二組の番(つがい)のどちらかと同じ親ツバメかどうか、さすがに区別がつかず、またツバメに聞くわけにもいかず、確かめようもないのだが、雄ツバメが去年のよりひと回り小さく見えるので、ひょっとすると去年巣立った雛のうちの一匹が帰ってきたのかもしれないなあ、とか勝手に思い込んで・・・毎日楽しみに観察している、春から初夏にかけての我が家の風物詩である。

リュウ
 だいたい6~7匹の卵が孵るのだが、困ったことに毎年、元気があり余り過ぎて親鳥から餌をもらうときに巣から身を乗り出して、過って落ちてしまう、とんでもなく「やんちゃ」な命知らずの雛が必ず一匹いるのである。家族の誰かが気がつくと、あわてて拾って脚立を立てて巣に戻してやるのだが、そのあと決まって母鳥が巣の縁に停まって「気をつけなさい、あぶないからって、いつも言ってるでしょ!。」「ほんとに何度いったらわかるの?」とまるで説教するかのように、巣の中でしょんぼりおとなしく並んで顔だけ出している雛たちに向かって、しばらくの間けたたましく「ピキッ、ピキッ、キュー」と鳴き続ける仕草がとても可愛く面白い。

 

 

 昨年は運悪く、雛が巣から落ちたときに発する親鳥の悲痛な「どうしましょう!助けてぇー!誰かー?」という悲鳴も、たまたま留守にしていた家族の誰にも届かず、もちろんすぐ斜め下にいる番犬は、私がフランス語を全く理解できないのと同様、ツバメ語なんぞ全く判らず何のレスキュー活動にも役立たず、誰にも気付かれないまま何とか玄関マットの端までよちよち歩いたらしく、その日の夕暮れ遅くそこで干からびていたのを見つけたときは本当に可哀想であった。 つばめの親

 

 運がいいとか悪いとか、人はときどき口にするけど、不幸は重なるもので、去年の同じ一組目の番の残りの雛たちがすっかり成長し、もう少しで飛びまわれるようになったころに、なんと近くの山から降りてきた天敵のカラスの襲撃によって無残にも残りの雛たちも一瞬にして全滅してしまった。たまたま親鳥が巣から離れていたときに、カラスがやってきて雛を一羽一羽くわえてはすぐ近くの電信柱の上で貪り喰らう光景を珠算の授業が始まる前に、ちょうど待っていた生徒の一人が偶然目にしたらしく、その惨たらしい光景を必死で説明してくれた。

 

 その後数日の間、親鳥の番が代わる代わる巣を訪れて、突然いなくなった自分たちの雛達を探しに、遠くの(淀川のかわらにあると聞く)ねぐらから飛んで来てはすぐ家の前の光ファイバー線の上に停まり、雛達を呼ぶように幾度となく、甲高く鳴く姿を見るのがとても忍びなかった。 

 

 いくら弱肉強食が自然界の掟とはいえ、あまりに残酷な現実を目の当たりにした母屋の主(あるじ=私)は、さすがに一日中ツバメの巣の下で立番は出来ないけれど、なんとか天敵のカラスからツバメの雛を守ってやろう、と一念発起。すぐにホームページとブログでいろいろとツバメの特性やカラス対策について調査を開始したのであった。 その甲斐あって、「巣の下にビニール紐を数本張り巡らすことで野鳥の中では、ひと際頭脳明晰で用心深いカラスは『罠だ!』と思い近づかなくなる。」という撃退法に辿りつき、この策が見事に功を奏し、その後に巣付きした二組目の番の雛をみごと六羽とも無事に巣立たせることができた。 つばめの雛達

 

 今年も同じ巣の下の糞受けダンボール箱に敷いた新聞紙の上に落ちた卵の殻を数えては、まもなく全ての卵が雛に孵る季節になった。「そろそろカラスよけビニール紐を張ってやろう。」と思う今日この頃、「今年は何羽の雛ツバメが巣立つのかしら?」と楽しみにしている=母屋の主は、憎きカラスと同じく、憎き宿敵『血糖値』という数を減らすべく、日々じぶんの「煩悩」の数とも戦っている。

 目標は110mg/DLを切ること。

 がんばれ、ツバメの雛達よ。

 がんばれ、母屋の主よ。(EOF)

(大阪珠算月報692号よりファイル原稿転載)

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