寄稿『そろばんと税理士業務』 (社)大阪珠算協会顧問税理士 桑野秀朗
本原稿は、(社)大阪珠算協会顧問税理士桑野秀朗先生が、 税理士の業界紙『近畿税理士界』第552号
(平成22年4月10日) に投稿されたコラム(近税サロン)記事です。 軽妙なタッチで、実務処理上のそろばんの効用と利点について 書かれたものです。(森友)
1.はじめに
私は、今は亡き父親に小学校の低学年の時から「そろばん」と「習字」を教えてもらったお蔭で将来は経理の仕事に従事しようと思いました。昭和23年生まれの私たちの育った時代にはコンピユータどころか、電卓もなく計算用具といえば圧倒的に「そろばん」でした。
昔から銀行・税務署・税理士事務所・保険会社・証券会社・企業の経理部門にはそろばんの熟練者が重用され、実際にも計算能力の高さを発揮して産業界の発展に貢献してきました。
現在でも税理士にも、国税職員にも多数の「そろばん」の上級者がいます。中には日本で有数の実力者もおられます。
2.『そろばん』とは
「そろばん」は人間の計算能力を高めるための器具です、10進法で非常に理解しやすいし、数字の観念の習得に効果があります。また計算のプロセスが見えるので初等教育には最適です。
私のころの日本商工会議所の珠算能力検定試験1級の問題は、かけ算は例えば、5桁かける6桁が20問、わり算は11桁わる5桁または6桁の20問、見取算10問、伝票算10問で各科目とも制限時間は10分間、見取暗算は3桁~4桁の10問を制限時間2分間で解答します。5種目すべてにおいて80%以上の正解でないと1級合格者とはなれませんでした。私は70問すべてが正答の全種目満点合格を達成しました。
3.『そろばん』の効用と税理士業務
今でも、私のカバンの中には「そろばん」が入っています。足し算、引き算は「そろばん」でします。簡単な計算は暗算でします。税務調査時や関与先において「そろばん」で計算を始めると不思議そうな顔をされることが良くあります。
昔の税理士事務所は補助元帳・総勘定元帳の合計、試算表の作成と「そろばん」による計算ばかりでした。中でも、試算表の間違い探し・減価償却表の作成には特に計算能力が要求され電卓・コンピュータが普及するまでは「そろばん」の独壇場でした。
「そろばん」で鍛えられたお蔭で数字を見る速さが違います。コンマごとで区切られた数字の群れを見る訓練をしていますので3桁をひとつの数字と見る習慣があります。
しかし計算をしなくても良い時でもついつい計算してしまう癖があります。野球中継でテレビ画面に打率(安打/打数)が出ていると間違っていないかと意識しなくても暗算で計算してしまいます。レジに並んでいるときも最悪です、一品ずつの値段に注文数をかけることで支払額をチェックしてしまいます。
4.コンピュータの問題点
コンピュータの優れているところは数多く有り、今や無くてはならないビジネスツールです。ソフトも多様で、入力さえ間違えなければ、瞬間に結果が出ます。「そろばん」とは比較の対象ではありません。
しかしながら、①コンピュ-タは上の桁なのに下から順次繰り上がっていく仕組みであるためケタ間違いが生じやすい。
②コンピュ-タでは入力者において、出力するまでは概算結果が分からない。③コンピュ-タのディスプレーを長時間見ていると目が疲れ、視神経に良くない。
その点「そろばん」はアナログの最たるものなので温かみがあり、計算過程においても集中力を高めていくことができます。
5.そろばんの良いところ
幕末から明治の初期に日本へ来た欧米人は、極東の弱小国ながら知識階級以外の庶民でも読み・書き・計算ができ、日本人の識字率と計算能力の高さに驚いたとの話があります。それは寺子屋の存在です。庶民も「読み・書き・そろばん」の教育を受けていたからです。
「そろばん」の名人級では5桁かける6桁のかけ算を暗算で瞬時に計算します。暗算をしていると右脳が発達します。頭の中に「そろばん」をイメージして、その「そろばん」を思い通りに動かして計算しています。
「そろばん」は①集中する力②イメージやヒラメキの力③記憶する力④注意深く観察する力⑤情報を処理する力⑥速く聴き・速く読む力のアップに効力があると評価されております。皆様方も一度試してみてはいかがでしょうか。
